2020S 期末演習 2
2020-07-06
令和元年司法試験「経済法」第1問(入札談合)のみ
問題
出題趣旨
採点実感
━━━━━━━━━━━━
連絡事項
「学生による授業評価」をUTASで行う旨の連絡がありました(法科大学院)。総合法政専攻・公共政策大学院も、それぞれの方法で「学生による授業評価」を行ってください。担当教員は、成績評価終了後に、集計されたものを、学生氏名は匿名のままで、見ることになります。
9k149で、平成30年度相談事例2を、メーカーが販売業者に商品の説明を求める行為に関する事例として引用しましたが、引用の仕方が悪く、販売方法についてそれなりの合理的な理由を論じた事例であるかのように見えるものとなっていました。販売方法についてそれなりの合理的な理由を論じた事例ではありません。販売方法についてそれなりの合理的な理由を論じた事例としては、平成27年度相談事例1・3などがあります。
━━━━━━━━━━━━
令和元年第1問
入る前に確認
課徴金についてはきかれていない。
令和元年改正は関係ない。・・減免の条文のみ
全体に共通すること
条文
要件
「相互拘束」
B
終了を除けば7社に共通
事業者
共同・相互拘束
意思の連絡
意思決定を制約
「相互に」
(問題に関係のないことは書かない)
一定の取引分野
「合意されたものが市場」
競争を実質的に制限する
https://gyazo.com/c5919eed4036f858e35c377f01a1e7f4
https://gyazo.com/5480a24f0deddb3fc9df67626fb00c5a
問題に無関係な点を2点
Aの課徴金加重
Eの減免申請
(Bの)違反成立
(競争の実質的制限に関する解答に自然に盛り込まれる)
(Bの)違反終了
岡崎管工判決基準(9k108)で平成30年6月15日
出題趣旨が、岡崎管工判決は「明確に」を基準としていると書いているのは、誤魔化しがある。誤魔化しのため、岡崎管工に「等」をつけているものと推測される。いずれにしても、本件のBは、6月15日に明確に告げている。
合意に復帰する可能性があったところ復帰もないことが明確になった日をとる、という立場なら平成30年7月30日
J
違反成立
(問題できかれていないが)
基本合意時点では「言葉を濁し」内心で考えただけなので意思の連絡はない。
第1回・第2回入札の時点では、指名を受けていないことを伝えただけなので、誰も拘束しておらず自分も拘束されていないから合意に参加したとは言い難い。
第3回入札で、7社と遜色ない行動をしているので、第3回の平成29年6月に違反成立。
違反終了
合意に参加した以上、7社と同じ扱いになり、Bのような特殊な事情もないので、通常のメンバーと同じ日に終わる。
一般論の基準は、拘束から解放され自由に事業活動を行うようになった、ということであり、9k107に書いてある。実際には、立入検査の日とされる。
終了日の前日が、課徴金関係での「実行としての事業活動がなくなる日」とされる。
言及するかもしれない新しい事例
時間も無くなったし、基本的には触れない。
━━━━━━━━━━━━
文章作成練習(今回が最後)
問題
令和元年第1問のうち、Bを含む7社の「競争を実質的に制限する」に関する部分のみ
第1問全体について答案を書く場合の、上記問題の部分だけを切り取って提出する、という感じにしてください。前後の無関係の部分は不要です。
簡単なコメントを希望する学生は、Slackの白石宛ダイレクトメッセージで、書いた文章を送ってください。成績評価には関係ありません。
テキストデータの状態で送ってください。画像による提出はご勘弁ください。
Slackの送信は7月8日(水)16時頃までにお願いします。
ごく簡単なコメントをSlackでお返しします。添削はできません。
7月9日の授業で、「よくできたもの」と「少し修正すれば良くなるもの」を各1例ずつくらい、皆に見てもらいながら説明する可能性があります(解答者氏名はもちろん明かさない)。それを了解した上で、送ってください。
━━━━━━━━━━━━
解答例
Scrapboxの仕様で、段落冒頭の字下げをすることができません。実際の答案では、字下げしてください。
よい解答例
よい解答例は3通以上ありました。便宜的に、そのうちの1通を掲げます。
(1)独占禁止法が、公正かつ自由な競争を促進することなどにより、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的としていること(1条)に鑑みると、法2条6項にいう「競争を実質的に制限する」とは、本件のような入札談合の事案においては、当事者である事業者らが落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態をいうと考える。そして、基本合意の時点において当該事業者らが落札者及び落札価格を左右できることが高い確率で予測できる場合には、基本合意を締結したことをもって競争の実質的制限の要件を充足するものと考える。
(2)ア 本件においては、特定農業施設工事の対象となる穀物貯蔵等施設の建設を請け負う事業者は10社以外に存在しないため、10社以外の事業者の参入により合意内容が攪乱される余地はない。また、かねてより穀物貯蔵等施設工事の指名競争入札においては7社のうち複数の者が指名されることが多かった。他方で、本件基本合意に参加していない3社については、主たる事業分野は農業施設以外の建設工事であり、穀物貯蔵等施設の建設能力は相対的に低かった。さらに、本件基本合意の内容の遂行において中心的な役割を果たしたAは、3社が特定農業施設工事の入札に指名されることは少ないと考えていた。
したがって、本件基本合意の時点において、落札者及び落札価格を左右できることが高い確率で予測できたといえる。
イ 本件では、計5回のすべての工事において、本件基本合意に基づく個別の受注調整が現に行われ、Bの造反が生じた第5回を除く計4回については、個別調整において受注予定者と決定された者が落札している。また、第5回を除く計4回については、その落札率はいずれも95%を超えており、極めて高い。
これらの事実は、本件基本合意の内容通りに個別の受注が行われたことを示しており、本件基本合意の内容が実施されれば競争変数が左右されるということが、合意時において高い確率で予測できたことを裏付ける。
ウ 以上より、本件基本合意は、「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の要件を充足するといえる。
shiraishi.icon
構成もしっかりしており、それぞれの内容も完璧だと思います。
特に、合意時からみての3社の評価において、3社の内心の考えを取り入れてよいかどうか悩むところなので(神様は知っているが合意参加者は知らない)、合意参加者のAの考えのみを挙げたのは手堅いと思われます。
構成・段落分けをきちんと行い、見出し番号((1)(2)やアイウ)を付けているので、論述が明瞭になっています。
あえていうと、(1)の部分は、「考える」でなく、そのような考え方が最高裁判決を含め確立している(単に自分の考えでなく)という書き方のほうが、客観性を高めることができるように思います。
少し直すとよくなる解答例
これに該当する解答例はたくさんありますが、一例のみ。
「競争を実質的に制限」(2条6項)とは、競争自体が減少して、特定の事業者がその意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって市場を支配することができる状態をもたらすことをいう。入札談合の場合は、当該取決めによって、その当事者である事業者らがその意思で当該入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいう。すなわち、市場支配力を形成、維持、強化することを意味する。
shiraishi.iconここは良いです。入札談合に限らない一般論 → これを入札談合に絞った場合の一般論 の構造が明らかになっています。暗記していなくても、この構造がわかっていれば、試験などでそれなりのことは書けるものだと思います。
(1) 本件合意に参加した7社は特定農業事業施設工事の事業者の70%を占めるところ、他の3社の穀物貯蔵等施設建設能力は相対的に低く、また3社の主たる事業分野ではないことから今後能力が格段に向上することも想定し難い。そこで、特定農業事業施設工事に農協から指名されうる一定の技術的水準を満たした建設業者が新規参入しない限り、需要の代替性は低い。
shiraishi.icon最後に「需要の代替性」と書いており、市場画定の話のようになってしまっています。市場画定としては、10社全てが供給者の範囲に入るものと思います。(1)は、市場画定(「一定の取引分野」)でなく、競争の実質的制限の問題として、「もし合意が実行されたら落札者・落札価格が左右されることが、合意の時点で既に確実であったこと」を論ずる段落です。お書きになった個々の要素はこれでよいので、何を論ずる段落かを再認識して、若干推敲するとよいと思います。
(2) 実際に本件合意により落札された工事は5回ある本件合意により個別調整が行われた工事は5回あるところ、そのうち4回の工事が本件合意に基づき個別で決定された受注予定者が基づく個別調整で決定された受注予定者が落札している。その際の落札率は、低くても第3回の95%、高い時には第2回の98%と落札者が可能な限り高く利益が得られるよう7社の意思に沿った価格で落札がなされ、第5回のBを除き、本件合意に従わなかったものはいない。すなわち、7社間で第4回入札までは内発的牽制力はなかった。加えて本件合意に直接的には他の供給者たる3社が参加していなかったとしても、Aが発注が行われる度に3社の意思を確認し、7社で決めた入札価格を連絡する方針を採り、7社がその方針を認識していた。さらに、これに基づき第3回、第4回入札においてJとIは落札可能性が限りなく低い、予定価格を超える価格を提示することで7社の意向に沿った入札が行われることに協力している。そこで、7社が3社を意識して価格を低くする必要がなく、他の供給者たる3社は外発的牽制力にはならなかった。よって、合意後の事情からも、本件合意により特定農業施設工事の落札者及び落札価格について、7社の支配力が形成されていたことが裏付けられる。
shiraishi.icon(2)は、非常によく考えられており、少し長くなっていますが、内容的には適切です。ただ、少し推敲して短くしてもよいかもしれません。合意時説である以上、あくまで(1)のほうが大事です。(1)をもう少ししっかり書いて、(2)はそれより短い、というくらいが丁度よいです。多摩最判も、そうなっていましたね。
(3) 以上より、本件合意によって、その当事者である7社がその意思で特定農業工事施設の入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらしていたといえる。